腫瘍医科学研究室

概要

がんは依然として日本における死因のトップであり、有効な治療法の開発は急務です。近年では腫瘍ががん細胞を中心として血管や間質などの多種類の細胞から微小環境を形成していることが明らかになり、治療の標的も多岐にわたりつつあります。我々はがん細胞において特異的に発現している分子を同定することにより、がん細胞を特異的に死滅させる標的治療法の開発を目指しています。さらに、がん微小環境におけるがん細胞以外の腫瘍血管・リンパ管やがん間質の形成の機構を解明することによって、がんの複合的な新規治療法の開発を試みています。

プロジェクト

内皮間葉移行(EndMT)によるがん間質の形成機構の解明

 腫瘍組織における「がん間質」に存在する「がん関連線維芽細胞(CAF)」にはがん細胞の増殖と悪性化を誘導することが明らかとなっているため、その生成機構の解明は重要な意義を持ちます。近年CAFの約3割が血管内皮細胞から内皮間葉移行(endothelial-to-mesenchymal transition: EndMT)という過程を経て生成することが報告されたことから、がんの悪性化におけるEndMTの重要性に注目が集まっています。私たちはさまざまな種類の血管内皮細胞が腫瘍微小環境において豊富に存在するtransforming growth factor (TGF)-βにより間葉系細胞へと分化することを見出してきました。本研究室においては、TGF-βによるEndMTの誘導を調節する新たな因子の同定を試みるとともに、EndMTにより生成した間葉系細胞において発現するマーカーの系統的探索を行います。EndMTはがん以外でも心疾患や糖尿病など患者数が多い疾患の悪性化因子であることが明らかとなっていますので、得られた知見はこうした疾患の治療法の開発に役立つことが期待されます。

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腫瘍血管・リンパ管を標的としたがんの進展と転移の抑制への試み

 血管は全身に分布し、末梢組織へ酸素と栄養分を供給したり、組織の老廃物の廃棄などという重要な役割を果たしています。この血管系とは別に組織液の排水路を形成するものがリンパ管であり、末梢組織において毛細リンパ管は血管から漏出した間質液などを吸収し,血管へと戻すことにより体液の恒常性の維持を行っています。一方、がん細胞が増殖する際に必要な酸素や栄養分を供給するために、腫瘍血管の新生は必須です。また、がん細胞が肺や肝臓などの遠隔臓器へ転移する際に血管とリンパ管は主要な経路となります。以上の理由から血管・リンパ管はがん治療の重要な標的となっており、すでに血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体などは臨床応用されています。しかし、腫瘍によってはVEGFシグナルの阻害が腫瘍血管抑制に有効でない場合もあり、血管・リンパ管形成を調節するシグナルの解明は重要な意義を持っています。私たちはTGF-βや骨形成因子(bone morphogenetic protein: BMP)が血管・リンパ管の形成を調節することを報告してきました。本研究室ではBMPシグナルを抑制するツールの開発などを通じて、これまでの基礎研究の成果を応用に活かしていくことを試みていきます。

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